折れた竜骨



米澤穂信の大作がようやく文庫化されたので読んだわけですが、やっぱりこの人すごいなと思ったです。
舞台は12世紀のイングランド。ただしこの世界では魔法や呪いといったファンタジー要素が現実に存在しているパラレルワールド。島への侵略者に備えていた領主が何者かに殺害され、主人公である領主の娘はその殺害に魔法が関わっていることを見抜いた騎士とその従士とともに犯人探しを開始、しかし一方で侵略者の脅威がせまっていた……というストーリー。上巻は事件が起こってから容疑者の犯行当時の状況を調べていくまで、下巻はいよいよ侵略者が攻めて来てからの合戦シーンと、領主殺害の犯人を導きだす解決編という構成になってます。いやー、まさか米澤穂信のミステリーで迫力の合戦シーン読むとは思いませんでしたよ(笑)
犯人探しそのものは魔法ではなく完全に「この人は殺害に関与していない」ということを論理的に確かめていくというもの。完全にロジックで詰めていくわけですが、おぼろげながら「もしかしてこの人が犯人なのでは……?」と思ってた人が犯人だったので、意外性はそれほどなかったわけですが、その告発シーンには悲しいドラマもあり。他方、犯人探しの中で「なぜ島が狙われていたのか」という領主の娘にとっては知らなければならなかった真実が明らかになったり、その中で新たな絆もでき……そういう「苦さ」と「それでもある希望」を描くという点で、まさしく米澤穂信の作品以外のなにものでもない、という感想を持ちました。
ボリュームは多いけど、必要充分な長さなんですよね……これは読んで損しない本。いろいろ賞をとったのも当然な気がしますです。